留学だより

留学だより 田中一大先生

米国テキサス州のヒューストンに留学の機会をいただいた平成16年卒の田中一大です。
2014年8月に渡米し、テキサスメディカルセンター内にあるMD Anderson Cancer Centerで肺癌のオミクス解析を中心とした研究を行っています。

テキサス州の面積は日本の約1.8倍、南西はメキシコと国境を接し、南東部はメキシコ湾を臨んでいます。ヒューストンの緯度は日本の種子島とほぼ同じで、夏は日射しが照りつけるような暑さが続きます。人口は約200万で名古屋と同じ規模(全米第4位)の都市ですが、公共交通機関と呼べるものがほとんどありません。そのため自動車が必需品で、牛乳一本を買いに行くのにも車を使うという生活です。観光名所と呼べるところが余りないのが寂しい点ですが、唯一NASA(アメリカ航空宇宙局)のジョンソン宇宙センターがロケットや宇宙飛行士の訓練施設などを見学でき訪れる人も多い名所になっています。

↑ヒューストンダウンタウン地区
の写真です。

↑7歳の息子とNASAにて。
実物のロケットの大きさは圧巻でした。

石油という強力な経済資源を持っているにもかかわらず、標準物価指数は全米でも下から数えて数番目らしく、物価はニューヨーク・ボストンの7割程度であると聞いています(留学生にとっては有難い話ですが)。そういった面もあってか非白人の移民が多く、近接するメキシコから来たヒスパニック系の移民はもちろんのこと、最近では中国系の移民が増えているそうです。確かに街中を歩いていると様々な髪の毛・肌・眼の色をした人達を見かけ、人種の多様性に富んだ街なのだと言うことを実感します。

テキサスメディカルセンターは、MD Anderson Cancer Center、Baylor college of medicine、Methodist、Texas children's hospitalなど大小合わせて13以上の医療施設が隣接して立ち並ぶ全米一の巨大医療複合体です。MD Andersonはその中でも最大の規模を誇り、敷地面積は東京ドームの数倍、従業員は約2万人と言われております。私が所属する研究室(Clinical Cancer Prevention)は、このメディカル地区中央に位置する施設の13階 にあり、眼下に観ることができる雄大なテキサスの地平線と青空に癒されながら研究を続けています。MD Anderson Cancer Centerは米国内で最も多くの癌患者さんを診察・治療していることから、研究サンプルも多く、臨床と研究の垣根が非常に低いことを実感しています。またMD Anderson Cancer Centerはその研究ミッションを癌撲滅としており、ここにきてから人類がいつか癌を根絶する日がくるのではないかと本気で思うようになりました。

↑自宅から見えるメディカル地区の写真です。これらのほぼすべてが医療・研究施設です。

↑MD Anderson Cancer Centerのロゴ。癌を撲滅という意味で、赤い線がCancerの上に描かれています。

ヒューストンにきて最初に戸惑ったのは、“テキサスなまり”の英語です。留学すれば誰もが最初に通過しなくてはならない関門として、銀行口座の開設・アパートの契約・保険の加入等々がありますが、もともとたいして英語ができるわけでもない上に、特にヒスパニック系の人々が話す独特の発音には本当に苦労しました。ひたすら“Could you speak more slowly?”と“Write down, please”を繰り返して、各種契約を乗り切っていた印象です。ただ幸いなことに、ヒューストンは移民が多く人口の10%近くは英語が話せません。そのため、英語が話せないことで冷たくされたことは一度もありませんでした。寛容に対応してもらえることがほとんどで、携帯電話のgoogle翻訳機能を使って説明を受けたこともあります(ネット社会に感謝です)。

現在所属するラボも多国籍軍で、アメリカ人はもとより中国・インド・トルコ・イタリアと様々な人種が混じり、それぞれの英語レベル・発音でコミュニケーションをとっています。
ポスドク・研究助手・assistant professor等をすべて合わせると30名くらいになるBig Labなので、昼休憩のときには色んな国の文化や歴史的見解が会話のネタとなり、話していてとても楽しいです。ちなみに中国人留学生とは尖閣・靖国問題などでよく討論になりましたが、今では一番仲のいい親友になりました、笑。 また、MD Anderson Cancer Center内でも各国々の文化(食べ物・ダンスなどなど)をテーマにしたフェスティバルが時折催されるため、様々な国の事情に自然と詳しくなります。

私にご指導下さっているラボのボスを2人紹介させていただきます。

左側の写真が所属しているラボのprofessorであられる Sam Hanash先生です。世界的に御高名で多忙のためあまりラボにはいらっしゃいませんが、ラボミーティングではつたない私の英語を汲み取っていただきいつも鋭く指摘・指導下さいます。右側はHanashラボのメンバーの写真で、一番手前の左が私の直属PI.田口歩先生です。約8年前に名古屋大学から渡米され、多大な研究成果を積み上げられて、昨年NIHのR1グラントを獲得されました。本当に凄いです。今年中にはMD Anderson内で独立されるため、ラボの立ち上げにも参加させていただくことになりました。いつも丁寧に御指導いただき鍛えられています。

渡米することで得られたもう一つの宝物が、時を同じくしてヒューストンに留学してきた日本人ドクターとの繋がりです。テキサスメディカルセンターに留学している日本人ドクターの飲み会が定期的に開催されます。科は違っても癌ということで共通することもあって、海外生活の苦労だけでなく研究面・臨床面でもとても深く話ができています。

息子が通うMD Anderson Cancer Center近隣の小学校は現地校ですが、テキサスメディカルセンターに勤める各国からきた家族の子供達が多いため、インターナショナルスクールのような賑わいをみせています。日本人の子供達も各学年数人はいるので、息子がクラスに馴染むのも割と早くてとても助かりました。母親同士の情報交換の場所にもなっているようで、家族持ちで留学をご検討されている先生方にもお勧めです。

最後になりますが、このような留学の機会を与えていただき導いて下さった長谷川教授、教官の先生方、そして支援してくれた後輩の先生方には心より感謝しております。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
また今後、留学を志しておられる先生方がいらっしゃいましたら是非ともご連絡下さい。
可能な限り力添えさせていただきます。

*この留学だよりは、2015年の同門会誌から転載しました。


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